はじめてでも迷わない!アーカイブTIFFとJPEGの違い

基礎知識:TIFFとJPEGのしくみと保存性の違い

まずは両形式の基本から整理します。TIFFは「非圧縮」または「可逆圧縮(元に戻せる圧縮)」で保存できる画像形式です。非圧縮では画素の情報をそのまま保持でき、可逆圧縮(LZWやZIP)は情報を失わずに容量を抑えられます。これに対してJPEGは「非可逆圧縮(元に戻せない圧縮)」で、目に見えにくい成分を数学的に間引いて容量を減らします。保存時にわずかな情報が捨てられるため、繰り返し上書き保存を行うと劣化(世代劣化)が累積する点が最大の違いです。
遺墨などの薄墨や紙肌の微妙な階調を長期にわたって保ちたい場合、編集前の原本はTIFFで残し、配布やウェブ掲載など閲覧用はJPEGで用意する「役割分担」を決めると迷いが減ります。印刷所や美術館・図書館では、保存マスターの形式にTIFFが採用されることが多く、互換性や運用実績の安心感が得られる点も判断材料になります。

非圧縮・可逆圧縮とは(劣化の仕組みと注意点)

非圧縮は画素情報をそのまま格納します。たとえばA4原稿を300dpi・RGB・8bitでスキャンすると約2,480×3,508pxで、理論上の非圧縮TIFFは約26MB前後、16bitなら約52MB前後になります。可逆圧縮(LZWやZIP)は内容によって圧縮率が変わり、紙肌の均一部が多い原稿ではおおむね数%〜数十%の削減が見込める一方、ディテールやノイズが多い原稿では効果が小さいこともあります。
非可逆圧縮のJPEGはDCT(離散コサイン変換)と量子化という手順で情報を間引きます。開くだけでは劣化しませんが、再保存のたびに再量子化が発生し劣化が重なります。制作工程で調整を繰り返す予定がある場合は、作業中はTIFF(またはレイヤー付きの作業用形式)を使い、書き出しの最後にJPEGにする運用が安全です。上書き保存ではなく「別名保存」で世代を分けると、品質トラブルの防止に役立ちます。

メタデータ保持と互換性の考え方

メタデータ(撮影情報・作品情報:EXIF/IPTC/XMP)は、後で検索・証跡確認・権利表示を行うための大切な情報です。TIFFもJPEGもメタデータを埋め込めますが、アプリによって書き込み方や対応項目が異なり、再保存時に一部が欠落する例もあります。実務では「作成者」「所蔵」「作品名」「制作年」「撮影日」「クレジット」「権利表記」など、使う項目を先に標準化し、入力テンプレートを決めるとブレが抑えられます。
公開運用では、SNSや一部のウェブサービスがメタデータを削除することがあります。公開ファイルは必要最低限の情報にし、台帳やカタログ用途にはメタデータが豊富な保存マスター(TIFF)を別に保持する二層構えが安全です。互換性はJPEGが最広い一方で、入稿・印刷や長期保存ではTIFFの信頼度が高い、という整理で考えると迷いを減らせます。

目的別の判断基準:長期保存・制作・配布の使い分け

判断をシンプルにするために「保存」「制作」「配布」の3局面で考えます。長期保存は、後でどのような二次利用(図録印刷や学術利用)が発生しても困らない品質で残すことが目的です。具体的には、TIFF・非圧縮または可逆圧縮・原寸スキャン・16bit(色の細やかさ)・適切な色空間とプロファイルの埋め込み・標準化したメタデータ、という組み合わせが基本の考え方です。作品がモノクロ主体の遺墨であれば、グレースケール16bitで容量を抑えつつ階調を確保する選択も現実的です。
制作は、レタッチ・色調整・トリミング・文字組などの作業を効率よく進める局面です。編集耐性を重視し、TIFF(必要に応じてレイヤー保存)や他の作業用形式で完了まで進め、最後に配布形式へ書き出します。配布は、閲覧環境やファイル転送のしやすさが優先されます。ウェブ公開やメール送付ではJPEG・sRGB・長辺2,000〜3,000px程度(目的に応じて調整)など、閲覧者側の扱いやすさを軸に決めます。こうした役割分担を先に合意しておくと、容量負担と画質のバランスで迷いにくくなります。

長期保存の基準(原本の定義と保全)

原本(保存マスター)は「将来の再利用で困らない最良状態」を満たすことが目標です。目安として、非圧縮または可逆圧縮のTIFF、解像度は原寸で300〜600dpi、微細なにじみや紙肌の再現が重要なら16bitを検討します。色空間(色の表現方式)は、撮影時に正しく管理できるなら広色域(Adobe RGB)で記録し、配布時にsRGBへ変換する運用が一般的です。管理が難しい場合や機材の統一ができない場合は、最初からsRGBで統一して運用の簡便さを優先する判断も妥当です。
また、メタデータは入力責任者を決め、作品台帳と同じキー(管理番号など)で紐づけます。ファイル名には通し番号だけでなく「所蔵者_作品名_制作年_版管理」の要素を入れると後工程が楽になります。保存先は少なくとも異なる媒体・異なる場所に複製し、定期的に復元テストを行って「開けること」を確認します。これらはあくまで目安で、予算・機材・人員によって最適解は変わります。

制作・配布での実務的な最適化

制作段階では、色調整やゴミ取りなどの編集を想定し、TIFFでレイヤーを保持したまま進めるとやり直しが効きます。仕上げ後に配布用を作る際、JPEGは品質設定を高め(例えば90〜95%)、書き出しは一度だけにします。再保存を避けるため、サイズ違い・トリミング違いは元のTIFFから都度書き出すルールにすると劣化トラブルを防げます。
ウェブ掲載ではsRGBでの色管理が前提になりやすいため、配布前にプロファイルを埋め込むことが重要です。図録やチラシ入稿では、先方の指定(TIFF推奨・解像度・トンボ有無など)を必ず確認し、必要なら保存マスターから相手先仕様の派生ファイルを作る流れが安全です。遺墨の再現性を重視する場合は、黒の締まりや紙地のわずかな色味が潰れないかを校正で確認します。容量が厳しいときは、長辺2,400px・JPEG品質90%程度など、用途に応じた基準を「運用メモ」としてチームで共有すると迷いが減ります。

項目TIFFJPEG現場メモ
保存性非圧縮/可逆圧縮で劣化なし非可逆圧縮で再保存で劣化原本はTIFF、公開はJPEGが基本線
画質階調・細部の保持に有利高圧縮で細部が損なわれやすい遺墨の薄墨・紙肌はTIFFが安心
容量の目安大きい(例:A4・300dpi・RGB・8bitで約26MB)小さい(品質次第で数百KB〜数MB)可逆圧縮でTIFFを適度に軽量化
編集耐性高い(再保存で劣化しない)低い(再保存で劣化する)作業中はTIFFで完結まで進める
メタデータ豊富に保持しやすい保持できるが欠落に注意入力項目の標準化と復元テスト
互換性印刷・保存で実績豊富閲覧・ウェブで最広用途ごとに役割分担を明確化

実務フロー:撮影〜保管の手順とチェックリスト

作品や資料の状態は一つひとつ異なります。まずは「原本(保存マスター)は最良品質で固定し、制作・配布は目的に合わせて派生を作る」という方針を全員で共有します。これにより、容量や機材に限りがあっても、判断がぶれにくくなります。薄墨や紙肌など微妙な質感が重要な遺墨は、照明・平面性・色管理を丁寧に整えると後工程の修正が少なく済みます。撮影とスキャンはどちらも有効ですが、反射・波打ち・厚みなど原稿の特性で向き不向きが分かれます。以下の手順とチェックで、最初の一歩を安全に進めます。

撮影・スキャン設定と原版ファイルの作り方

撮影では、RAW(カメラの生データ)記録を基本にし、後でTIFFへ現像します。照明は左右からの斜光で均一にし、偏光フィルター(反射を軽減するフィルター)を併用すると光沢紙や墨のテカリを抑えられます。原稿の平面性を確保するため、無反射ガラスやアクリルで軽く押さえ、ケラレ(端の欠け)防止に周囲へ余白を確保します。小さな薄墨の擦れを拾いたい場合は、等倍での解像感が出る焦点距離と三脚固定、ミラーショック対策、リモート撮影を徹底します。
スキャンでは、反射原稿(写真や紙)の基本は原寸で300〜600dpi、階調は16bit(色の細やかさ)を検討します。モノクロ主体の遺墨はグレースケール16bitで階調を確保しつつ容量を抑える方法が有効です。透過原稿(スライド等)は専用ユニットで、光量ムラとNewtonリング(干渉縞)に注意します。いずれもICCプロファイル(機器間で色を正しく変換するための添付情報)を適切に設定し、作業後はTIFF・可逆圧縮(LZW/ZIP)で原版を保存します。チェック項目は、均一露光/四隅の歪み/色ターゲットの一致/ピント/ゴミ・汚れ除去——の順で確認します。

命名・フォルダ設計・版管理の運用ルール

命名は「誰の何が第何版か」が見て分かることが最優先です。例として「所蔵者ID_作品名_制作年_撮影日_管理番号_v01_master.tif」のように、所蔵・題名・年代・撮影日・連番・版(v)・役割(master/work/pub)を組み合わせます。派生は「v01_pub_jpeg_l2400px_q90.jpg」など、目的・サイズ・品質を明記します。フォルダは「00_master/10_work/20_pub/90_meta」の大枠で始め、台帳(作品情報の一覧)や同意書PDFは「90_meta」に集約すると検索性が上がります。
版管理(バージョン管理)は「追記しない原則」で、上書き保存を避け、段階ごとに別名保存します。メタデータ(撮影情報・著作情報:EXIF/IPTC/XMP)はテンプレート化し、「作成者」「所蔵」「作品名」「制作年」「撮影日」「クレジット」「権利表記」を最低限の共通項目にします。月次で「開けるか」「項目が欠落していないか」を点検し、問題があれば運用メモに追記して次回に活かします。

バックアップと検証(多重化と復元テスト)

基本は「3−2−1ルール」(3つのコピー、2種類の媒体、1つは別拠点)です。たとえば、NASと外付けHDD、クラウドの3系統に同じ原本TIFFを保持します。更新が発生した日は自動バックアップを確認し、週次で差分の整合性、月次で復元テスト(別PCで実際に開く)を行います。大容量対策としては、可逆圧縮TIFFを採用しつつ、保管は原本のみを厳選し、制作・配布の派生は必要時に都度生成する方針が有効です。
検証時は、チェックサム(改ざん検出のための照合値)やファイルサイズ・最終更新日を記録し、異常時に前回正常版へ戻せるよう履歴を残します。クラウドは世代管理(履歴保存)に対応したサービスを選ぶと、誤操作の復旧が容易です。停電や災害を想定し、別拠点は最低でも市外、可能なら県外に置くとリスク分散になります。

画質と容量のバランス設計

保存・制作・配布で必要な品質は異なります。保存は「将来の未知の利用」に耐え、制作は「編集のやり直しへの強さ」、配布は「閲覧しやすさ」が軸です。画質を決める主要因は、解像度(画像の細かさ)、ビット深度(色の細やかさ)、色空間(色の表現方式)、圧縮率(データ削減の度合い)です。すべてを最大化すると容量が急増するため、用途ごとの「下限ライン」を合意しておくと迷いが減ります。印刷や図録の入稿仕様は先方の指示を最優先し、迷う場合は保存マスターから要件に合わせて派生を作ります。

解像度・カラープロファイルの目安

解像度は原寸で300dpiを基準に、細部の文字・繊維・薄墨の粒立ちが重要なら600dpiを検討します。小さい原稿ほど高解像度の恩恵が大きく、A6未満では600dpiが安心です。色空間は、機材と運用が整っている場合はAdobe RGB(広い色域)で撮影・現像し、ウェブや一般配布ではsRGBへ変換します。運用の簡便さを重視するなら、最初からsRGBで統一しても問題はありません。
ICCプロファイル(色変換のための添付情報)は必ず埋め込み、モニター側もキャリブレーション(表示の基準合わせ)を月次で行います。遺墨のようなモノクロ主体は、グレースケール16bitで階調を保つと、暗部の粘りや滲みの繊細さが残りやすくなります。色校正の代替として、標準光下でのプリント確認を行い、黒の締まりや紙地の色味が潰れていないかを目視で点検します。

JPEG圧縮率の考え方と実務上の妥協点

JPEGは非可逆圧縮(元に戻せない圧縮)のため、再保存を避け、書き出しは最後に一度だけにします。品質値は90〜95%を起点に、長辺2,400〜3,000px程度の閲覧用を作ると、多くの環境で見やすく転送も軽くなります。サブサンプリング(色差の間引き)は4:4:4が理想ですが、容量優先なら4:2:2や4:2:0も検討可能です。画面での差が目立たない範囲をチームで確認し、標準値を運用メモに固定します。
容量が厳しい場合は、まず解像度を段階的に下げ(例:長辺3,000px→2,400px)、次に品質値を90%→85%へと小刻みに調整します。圧縮 artefact(ブロック状の崩れ)が筆致や紙肌に出ていないか、100%表示と画面フィットの両方で確認します。配布ファイルにメタデータを最小限だけ残し(クレジット等)、保存マスター側で詳細を保持する二層構えにすると、漏えいリスクと容量を同時に抑えられます。

用途形式解像度の目安ビット深度色空間・プロファイルメタデータ備考
保存(原本)TIFF(非圧縮/LZW)原寸300〜600dpi16bit推奨Adobe RGB運用可/ICC埋め込み作品情報を充実後工程は常にここから生成
制作(編集)TIFF(レイヤー可)原寸300dpi以上16bit推奨撮影時に合わせる最小限で可上書き禁止・別名保存
配布(閲覧)JPEG長辺2,400〜3,000px8bitsRGB/ICC埋め込み必要最小限品質90%前後を起点に調整

対応運用:権利・同意・個人情報の基本(一般的な注意喚起)

アーカイブは「保存」と同時に「公開・共有」の可能性を含みます。公開形態(図録、ウェブ、SNS)に応じて、権利者(著作権者・所蔵者・撮影者など)の範囲と表示方法を事前に整理しておくと、後戻りが減ります。まずは「何を、どこまで、誰に見せるか」を決め、想定外の二次利用(再配布・転載)に備えて、ファイル自体の情報と外部の台帳(作品情報の一覧)を分けて管理します。小規模な運用でも、確認→記録→公開→監査という流れを小さく回すことが、トラブルを避ける近道になります。

図録・オンライン公開時の表示と配慮

図録やウェブ公開では、最低限のクレジット(表示ルール)を決めて統一します。例として「作品名/作者名(制作年)/所蔵/撮影クレジット」の順に統一し、図録では奥付にまとめ、オンラインではキャプション(説明文)と代替テキスト(画像が見られない人向けの説明)で要点が伝わるようにします。遺墨は落款や印影、旧住所の記載が写ることがあり、個人につながる情報が読み取れる場合は、トリミングやぼかしの適用を検討します。
色再現については、図録と画面表示で見え方が異なります。図録では標準光下での色校正(色の見え方のすり合わせ)を行い、オンラインでは閲覧環境差に配慮した注記を添えると誤解を減らせます。公開ファイルのサイズは閲覧に十分な範囲(例:長辺2,400px)に抑え、保存マスターは別管理とする二層構えにすると、無断転用の抑止と配布のしやすさを両立できます。

メタデータの公開範囲と個人情報の扱い

メタデータ(撮影情報・著作情報:EXIF/IPTC/XMP)は、保存と検索の要ですが、公開時は「必要最小限」を原則にします。公開用テンプレートでは「作者名/作品名/制作年/所蔵/クレジット」のみにし、担当者名・連絡先・所在地・機材シリアルなど個人情報や内部情報は含めません。保存用テンプレートには詳細を記録し、アクセス権(閲覧可能な人の制御)で保護します。
SNSや一部のウェブサービスはメタデータを自動削除することがあります。公開ファイルに必須事項だけを残し、詳細は台帳と保存マスター側で保持すると、漏えいと情報欠落の両方を避けやすくなります。未成年の作者や生存する権利者が関わるケースでは、同意範囲(媒体・期間・地域)を文面で明確にし、公開後の取り下げ手順を事前に定めておくと安心です。

ここでの権利・個人情報に関する説明は一般的な注意喚起であり、特定の案件に対する法的助言ではありません。規約や法令は更新されるため、公開や二次利用の可否は所蔵者・権利者との合意および関係機関の最新ガイドラインを各自でご確認ください。

まとめ

本稿の要点は、原本(保存マスター)と配布物の役割分担を決め、判断のよりどころを「保存性・編集耐性・閲覧性」の3軸で揃えることです。保存マスターはTIFF・可逆圧縮・16bit(色の細やかさ)・ICCプロファイル(機器間で色を正しく変換するための添付情報)を基本にして、命名・台帳・メタデータを標準化します。配布は用途に応じてJPEG・sRGBで書き出し、サイズと品質を運用メモで固定します。
運用を支えるのは、小さなルールの積み重ねです。上書き禁止の別名保存、3−2−1ルール(3つのコピー、2種類の媒体、1つは別拠点)、復元テスト、そして公開前の権利チェックを一連の流れに組み込みます。下記のチェックリストを週次・月次の点検に活用すると、担当が変わっても品質と安全性を保ちやすくなります。

項目頻度確認内容担当
保存マスター作成都度TIFF・可逆圧縮・16bit・ICC埋め込みを満たす撮影者
命名規則チェック都度所蔵者ID/作品名/制作年/管理番号/版(v)を含む記録担当
メタデータ入力都度作者名・作品名・制作年・所蔵・撮影日・クレジットを入力記録担当
上書き禁止の別名保存都度v番号で世代管理、作業ファイルと公開用を分離制作担当
バックアップ実行毎日3−2−1ルールでNAS/外付けHDD/クラウドへ複製保存管理
復元テスト毎月別PCで開けるか、破損がないかを検証保存管理
チェックサム記録毎月ハッシュ値(改ざん検出用の照合値)を更新・保管保存管理
公開用書き出し都度JPEG・sRGB・長辺2,400px前後、品質・圧縮設定を記録公開担当
公開前レビュー都度クレジット・権利表記・ぼかし/トリミングの妥当性を確認公開担当
運用メモ更新毎週例外対応・合意事項を追記、次回の基準に反映全員

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