安心して公開するための二次利用と許諾の書面の作り方と運用

はじめに、教室作品の発表を広げたい主宰者や、遺墨展の図録・Web掲載を任された方、企業の資料公開を管理する担当の方へ。写真や作品の再公開は、ちょっとした行き違いで信頼を損ねやすい領域です。たとえば「生徒や参加者の顔写真を載せてよいか不安」や「同意書に何を書けば足りるのか整理できない」、そして「公開停止の依頼が来た時の対応が決まっていない」などの悩みをよく伺います。本記事では、専門語はかみくだいて、判断の目安・作成手順・運用チェックを順に示します。読み終えるころには、迷いやすい場面でも落ち着いて説明し、むやみにリスクを恐れず進められる状態を目指します。

著作権・同意

著作権と著作者人格権の基礎整理(作者の名誉・扱いの権利)

まず前提をそろえます。著作権(作品を利用する権利の束)は、作品を複製・公衆送信などに使う可否を決める権利です。これと別に著作者人格権(氏名表示・同一性保持など作者の名誉を守る権利)があり、作品の「名前の出し方」や「勝手な改変」を嫌がった場合の根拠になります。作品の現物を所有していても、所有権(物の持ち主である権利)と著作権は別です。つまり、作品の再公開や図録掲載をしたい時は、作者や権利者の意思を確かめ、その範囲で使うことが基本線です。ここでの判断の目安は、①何を、②どこで、③どれくらいの期間、④どの程度加工して、という四つの軸を先に決め、合意内容を言葉に落とすことです。これを外さなければ、後の運用がぐっと楽になります。

肖像権・所有権・データ化の違いと関係

人物が写る写真には肖像権(写った人が勝手に使われない利益)が関係します。法律名として明記されるわけではありませんが、一般にプライバシーや人格権の観点から配慮が求められます。作品のスキャンや撮影というデータ化(原物を画像・PDFにすること)は複製に当たり、著作権の領域です。さらに会場や作品の所有者は撮影可否を決める立場にあり、所有権のルールも無視できません。つまり、人物が写る作品写真をサイトに載せたい場合、少なくとも①作者または権利者、②写っている本人、③会場や所蔵者という三方向の合意の重なりを意識します。誰の承諾が未取得かを早い段階で洗い出し、足りない部分を個別同意で補うと、後の差し替え・削除の手間を減らせます。

二次利用の目的・範囲・期間・媒体の決め方

再公開や再配布といった二次利用(当初の目的以外で使うこと)は、目的の具体性が命です。「教室の活動紹介として」「遺墨展の記録として」「社内教育の資料として」など、なぜ使うかを短く書き、次に媒体(Web、SNS、図録、PDF配布など)を列挙します。期間は「公開から3年」など終わりを決め、地域は「日本国内」または「全世界」を示します。改変の可否は、トリミングや明るさ調整などの軽微な加工と、合成・文字入れなどの印象を変える加工を分けて書くと誤解を避けられます。最後に再許諾(サブライセンス=外部委託先にも使わせること)の要否を整理します。撮影やデザインを外注する場合は、委託先にも必要な範囲で再利用できるのかを明確にし、クレジットの出し方や公開停止時の役割分担まで含めて合意しておくと安心です。

同意書面の作成手順

目的と利用媒体の書き方

文面の基本は「目的→媒体→期間→範囲→改変可否→再許諾」の順に短文で積み上げることです。たとえば、「教室の活動紹介のため、公式サイト・SNS・配布用PDFに掲載します。公開期間は公開日から3年、地域は全世界です。明るさ調整やトリミングなど軽微な加工は行います。外部制作会社への必要な再許諾を含みます。」のように、一文ごとに一要素を述べると読み手の解釈が分かれにくくなります。図録や遺墨展の記録では、頒布の形態(販売・寄贈・関係者配布)も一行で加えると実務に耐えます。Webと印刷で異なる扱いがある場合は小見出しを分けず、同じ段落内で「印刷物では〜、Webでは〜」と対比させると、後日の参照時に迷いません。

権利項目(クレジット・補償・撤回条件)の押さえ所

クレジット表記(著作権表示=作者名や所蔵先の示し方)は、最初に統一ルールを決めます。例として「©作者名/所蔵:団体名/撮影:氏名」の順を採用し、媒体により略記する場合の短縮形もあらかじめ示します。補償は、誤掲載やクレジット不備が起きた時の対応を「速やかに訂正・削除し、必要な範囲で再印刷・差し替えを行う」など現実的に書きます。撤回条件は、個人の事情で公開停止の申し出があった場合の扱いを、「将来の掲載を停止し、在庫や既発行物は原則として回収しない」など、実行可能性を基準に整えます。合わせて、問い合わせ窓口と対応期限(例:受付から7営業日以内に一次回答)を決めておくと、感情的な行き違いを防ぎやすくなります。

未成年・故人作品・代理同意の実務ポイント

未成年が関わる場合は、保護者の代理同意(親権者またはそれに準ずる保護者の署名)を基本とし、連絡先も保護者情報を主とします。連絡は学校経由か個別かを現場に合わせて選び、撮影・掲載の可否を細分(顔出し可・作品のみ可・氏名非掲載など)してチェック式にすると安心です。故人の作品を扱う遺墨展では、著作権者が相続人等に移っている可能性を踏まえ、記録・広報・販売の別を丁寧に書き分けます。代理同意は、団体代表や学級担任が包括的に承認する場合でも、個人の肖像や私物が映る部分は個別同意で補完する方が安全です。過去に取得した同意の再利用は、目的や媒体が変わる時点で取り直しを検討し、日付・版数を明記して最新版管理を徹底します。

項目判断ポイント
目的教室の活動紹介/遺墨展の記録誰のための公開かを一言で示す
媒体公式サイト、SNS、図録、PDF配布列挙は具体名、追加時の連絡方法を添える
期間公開日から3年終了時の取り扱いと延長の可否を書く
範囲(地域)全世界配布先が海外を含むかを事前に確認
改変の可否トリミング・色補正は可、合成は不可軽微な加工と印象変更の線引きを明記
再許諾外部制作会社に必要範囲で可委託の有無と範囲、再委託の連絡義務
クレジット©作者名/所蔵:団体名/撮影:氏名媒体別の略記形と表記位置のルール
対価掲載は無償、図録販売は印税なし金銭が動く場面を例示し誤解を防ぐ
撤回条件申し出以降は新規掲載を停止既発行物の扱いと代替措置の有無
問い合わせ窓口メールアドレス、担当名受付から7営業日以内の一次回答を目安に
保管同意書は施策終了後5年保管アクセス権限と破棄時期を決めておく

取得フローと記録管理

同意は「集めて終わり」ではなく、後で迷わないための記録と突き合わせが大切です。ここでは、いつ・誰から・どの範囲で許諾を得たかを、台帳(作品・権利・同意の一覧記録)に結びつけて運用する手順を示します。現場の負担を増やしすぎないことも重要ですので、まずは最小限の必須項目から始め、無理なく拡張できる形を目指します。

申込み時の包括同意と個別同意の使い分け

包括同意(最初にまとめて取る同意)は、年間の活動紹介や定期的な成果公開など、目的・媒体・期間が比較的安定している場合に向いています。たとえば「公式サイト・配布用PDF・SNSでの活動報告。公開は公開日から3年」というように、変動の少ない要素を先に固めると、日々の確認コストを抑えられます。一方、個別同意(作品や場面ごとに取る同意)は、特定の図録販売や外部メディアへの提供など、影響範囲が広い案件に適しています。包括でカバーしきれない「顔出しの可否」「氏名の掲載形態」「改変の範囲(トリミング=切り抜き・色補正など)」はチェック式で分岐させ、足りない部分のみ個別で補います。また、募集要項や参加規約に包括同意の要点を簡潔に載せ、公開直前には短い事前告知で再確認(事後確認=公開前の最終同意)を行う二段構えにすると、利用者の納得感が高まりやすいです。

作品台帳と同意書の紐づけ手順

台帳(作品・権利・同意の一覧記録)は、検索しやすさが第一です。作品ごとに一意のID(例:W2025-001)を振り、同意書にも同じIDを記載します。台帳の基本項目は、作品名、作者名、撮影日、媒体予定、公開期間、クレジット表記、同意の取得方法(包括/個別/事後確認)、取得日、連絡先、撤回条件の要旨です。データ化した画像やPDFのファイル名にもIDを含めると、後からの照合が容易になります。メタデータ(検索のための付帯情報)として「顔が写る/写らない」「未成年含む」「外部委託の有無」をフラグ管理すると、公開前チェックの漏れを減らせます。紙の同意しか取れない場面では、スキャンしてPDF化した上で台帳からリンクさせ、版数(バージョン管理=改訂の履歴管理)を残すと差し替え時の混乱を防げます。

保管期間・アクセス権限・個人情報の扱い

保管期間は「公開終了後5年」など目安を先に決め、例外は台帳に注記します。アクセス権限(閲覧・編集の許可範囲)は最小権限(必要最小限だけ付与する原則)を基本に、編集者、閲覧のみ、外部共有不可など役割(ロール=担当ごとの権限区分)を分けます。操作の記録(監査ログ=誰がいつ何をしたかの履歴)が残る仕組みを使うと、差し替えや削除の経緯を説明しやすくなります。個人情報は、氏名や連絡先の扱いを分けて考え、公開に不要な情報は匿名化(個人を特定できないようにする加工)やマスキング(黒塗り)を検討します。バックアップは世代別に最低3世代を持ち、退職・異動時の引き継ぎ手順を文書化しておくと、長期運用でも品質を保ちやすいです。

フロー使う場面主なチェック記録の要点
包括同意年間の活動紹介、定期公開目的・媒体・期間・改変の範囲、再許諾の要否取得日、対象範囲、窓口、撤回条件の要旨
個別同意図録販売、外部メディア提供顔出し・氏名表記、販売の有無、委託範囲作品ID、版数、納品先、クレジット確定形
事後確認公開直前の最終確認掲載見本の提示、期限内の可否回答返信日時、差し替え指示、対応完了日

リスクとグレーケースの判断基準

運用では「完全に白か黒か」と言い切れない場面が続きます。ここでは判断の目安を置き、迷った時に立ち戻れる基準を用意します。重要なのは、一貫した説明ができることと、後から理由を示せる記録が手元に残ることです。

顔が写る・共同制作・改変(二次著作)の目安

顔が大きく写る写真は、本人への影響が大きいため慎重に扱います。集合写真で個人の識別が難しい場合でも、背景の人物が特定できる情報(名札や席順)が写ると配慮が必要です。ぼかし(ぼやけ処理)やトリミング(切り抜き)で代替できるなら、まず検討します。共同制作(複数人が共同で創作)では、代表者の包括同意で進められる場面もありますが、個々の希望に差が出やすいため、氏名表記や公開範囲を個別に確認するほうが無難です。改変が創作性を伴う場合は二次著作(改変により新たな著作物となる状態)に触れる可能性があります。色味調整や軽微な汚れ除去と、合成・文字入れ・大幅トリミングのように印象を変える加工は線引きを分け、同意文言に具体例を添えると誤解が減ります。

外部委託・SNS再配布・二次配信の注意

外部委託(社外に作業を頼む)では、秘密保持契約(情報を他に漏らさない約束)と再許諾(サブライセンス=委託先にも使わせる可否)の範囲を明確にします。納品物の権利帰属やクレジット表記の扱いも、作業開始前にすり合わせると安全です。SNS再配布は、プラットフォーム規約(サービスの利用条件)により二次利用の範囲が広がる場合があります。たとえば埋め込み(他サイトにSNS投稿を表示すること)を許可する規約があると、想定外の露出が起きやすくなります。二次配信(別媒体での再公開)は、元の同意の目的・媒体と整合しているかを点検し、想定外なら追加の個別同意を検討します。サムネイル自動生成や機械学習の学習利用といった副次利用の有無も、できる範囲で説明を添えると利用者の安心につながります。

公開停止・削除リクエストの判断と記録

公開停止の申し出は、感情的になりやすい局面です。まず受付の事実と理由を記録し、一次回答の期限(例:受付から7営業日以内)を伝えます。停止の可否は、同意文言の撤回条件や在庫の有無、代替措置(差し替え・クレジット訂正)で実行可能かを基準にします。検索結果やキャッシュ(一時保存)の残存は即時に消えないため、その性質を丁寧に説明し、できる対応(元ページの非公開、サムネイルの差し替え、関係先への依頼)を段階的に行います。対応の全過程をログ(時系列の作業記録)として台帳に紐づけ、誰が何を判断したかを残すと、後日の説明負担が軽くなります。再発防止として、同意文言や周知文面、社内フローの見直し点を1件ごとにメモしておくと、次の案件で迷いが減ります。

対応運用(ワークフロー・チェックリスト)

実際の運用では、文面を作っただけでは十分とは言い切れません。関係者が入れ替わっても同じ品質で回せるよう、手順と判断の目安をセットで用意します。ここでは、事前準備→当日運用→公開後対応の順に、最小限で始めて確実に回せるフローと、迷いやすい場面での確認観点をまとめます。場面ごとに「誰が・いつ・何を・どこに記録するか」をはっきりさせ、台帳(作品・権利・同意の一覧記録)と常に突き合わせる前提で進めます。初回は簡素でも構いませんが、公開停止や差し替えの依頼が発生したら、その事例をテンプレートへ反映し、次回は同じ迷いが起きないように小さく改訂していくことが大切です。

事前準備と周知文面の整え方

公開対象や撮影範囲、同意の取り方が人によって解釈ブレを起こしやすいので、事前の周知文面を簡潔に整えます。文面には、目的(例:活動紹介)、媒体(例:公式サイト・SNS・配布用PDF)、期間(例:公開から3年)、改変の可否(例:トリミング・色補正のみ可)、再許諾の扱い(例:外部制作会社に必要範囲で可)を短文で並べます。未成年や故人作品が含まれる場合は、その取扱いの注記も一行で添えます。説明会や申込ページには、顔出し可否や氏名表記の選択肢をあらかじめ示し、後からの変更方法と期限(例:公開予定日の3日前まで受け付け)も明確にします。多言語が必要な現場では、日本語の原文を先に固め、英訳は簡潔な語彙で原文に忠実に合わせると齟齬が減ります。最後に、作成した同意文面の版数と日付を入れ、台帳から最新版へリンクできるようにしておくと、古い条件で進む事故を防げます。

当日運用と確認手順(現場での声かけ・記録)

当日は、受付での案内→撮影時の声かけ→終了後の記録更新の三段で考えます。受付では、掲示と口頭の双方で「撮影の有無」「顔出しの可否」「氏名表記」の選択肢を再確認し、迷う方には作品のみ撮影やぼかしの選択肢を提示します。顔出し不可の方が混ざる場面では、座席配置や撮影角度を先に調整し、集合写真は識別できる名札等が写らない位置取りを優先します。担当者は、掲載予定の見本(スマホの画面キャプチャ等)を短時間で提示し、公開の目的・期間・媒体をもう一度簡潔に復唱します。終了後は、作品IDごとに当日確認の結果を台帳へ追記し、差し替えや非公開の指示がある場合は、対象カットのファイル名と保存先を具体的に記録します。小規模現場でも、この「声かけ→見本提示→台帳更新」を揃えるだけで、後日の差し替え工数と行き違いが大きく減ります。

公開後の問い合わせ窓口と記録更新

公開後は、問い合わせの一次窓口と判断者を分けると滞りにくくなります。受付は事実関係を丁寧に聞き取り(どの画像・どの媒体・いつから掲載か)、台帳と照合して条件内かどうかを確認します。条件内でも不快感や事情がある場合は、実行可能性(すぐ差し替え可能か、代替画像の在庫はあるか、印刷物の在庫はどれだけか)を基準に対応案を組み立て、一次回答の期限(例:受付から7営業日以内)を明示します。作業が完了したら、対応日時・担当・具体的な変更点(例:サムネイル差し替え、氏名略記へ修正)をログ化し、再発防止として同意文面や現場ルールの見直し案をひとこと添えます。定期的に台帳の棚卸し(例:四半期ごと)を行い、公開期間の満了に伴う自動下げ処理や、リンク切れ・キャプション不備の是正をまとめて実施すると、長期の品質を保てます。

項目記入例チェックの狙い
受付日時2025/09/03 14:20受付の時点確認と期限計算の起点
申出者作者A(連絡先メール)連絡経路と本人性の把握
対象公式サイトの作品ID W2025-014/図録p.12台帳との突き合わせを容易に
理由顔出し不可への変更希望感情的要因と条件整合の切り分け
一次回答期限7営業日以内(~2025/09/12)期待値の共有と遅延防止
暫定対応サムネイルを作品のみへ差し替え影響範囲を小さく早く抑える
恒久対応本文画像を差し替え、キャプション更新施策完了の定義を明確に
公開停止可否新規掲載停止、既発行物は回収せず実行可能性に基づく判断の明示
関係先連絡外部制作会社へ差替データ共有再許諾範囲と依頼の記録
再発防止申込時の選択肢に作品のみの選択を追加次回のルール改定へ反映

(注意喚起)本節の内容は一般的な運用上の目安であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。適用範囲や必要な同意は、事情や地域のルールにより異なる場合があります。必要に応じて専門家の確認を検討してください。

まとめ

同意文面は「目的・媒体・期間・改変・再許諾」を短く揃え、台帳で作品IDと紐づけると迷いが減ります。現場では、声かけと見本提示で認識を合わせ、終了後すぐに台帳を更新します。公開後は、一次窓口の丁寧な聞き取りと、実行可能性を基準にした段階対応で負担を抑えます。小さく始めて、対応ログから学びを次の版へ反映する姿勢が、長く安全に公開を続ける近道です。

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


関連記事

教室・展示で迷わない肖像権と同意書【テンプレートの設計と実務】

展示と配布物で迷わない著作権表示と作品の実務ガイド基礎

PAGE TOP