記録冊子に凡例を付けるなら――何を変え、どこを省いたかを残す
資料を読み物に整えたら、実際に行った表記変更や省略を確かめましょう。二頁の自作文を編集した案から、冊子全体の凡例と、その場所に置く注記の分担を考えます。
HUKUSYA / JOURNAL

旧い資料を読みやすい冊子へ整えるとき、表記を直したり、一部を省いたりすることがあります。完成した本文だけでは、その編集が元の資料にあったものか、編者が加えたものか分かりにくくなります。
冊子全体に共通する扱いは凡例にまとめ、特定の箇所だけに必要な説明はその場所へ添えましょう。何を元にし、どの範囲を収め、何を変えたのかを、実際の編集内容に合わせて残します。
凡例には、この冊子を読むための約束を書く
石川特殊特急製本の本づくりの案内では、凡例を、著者や編集者が本文の約束事・略語・記号などを説明するページとして紹介しています。[1] 資料を編集した冊子なら、使った資料と収録範囲、表記や省略、画像の扱いなどを読む方へ伝える場所にできます。
凡例へ何でも集める必要はありません。冊子のどこを読んでも共通する扱いをここへ置き、一箇所だけの省略や読めない文字の説明は、本文中の注記と分担します。編集した方の記憶だけに頼らず、原資料と編集後の原稿を並べて確かめます。
二頁の自作文を使って、編集前と後を比べる
ここでは、この案のために二頁に分けて書いた短文を使います。元の文に、旧い字体や仮名遣いを一部置き、表記変更と欄外メモの省略を行った読み物版を作ります。実在する人の日記や、団体の活動記録を引用したものではありません。
一頁目の元の文
花壇の記錄
きのふ、入口の花だんを見た。
白い花は三つ、黄いろの花は二つあつた。
一頁目を編集した文
花壇の記録
きのう、入口の花だんを見た。
白い花は三つ、黄いろの花は二つあった。
二頁目の元の文
花壇の記錄 つづき
雨のあと、葉の上に水がのこつた。
次は、葉の形も書きとめたい。
欄外メモ:次の觀察で使ふ持ち物を書く。
二頁目を編集した文
花壇の記録 つづき
雨のあと、葉の上に水がのこった。
次は、葉の形も書きとめたい。
[欄外メモ省略]
一頁目では題の「記錄」と本文の「きのふ」「あつた」を、二頁目では題の「記錄」と本文の「のこつた」を変えました。二頁目の欄外メモは読み物版から外し、その場所に編者が付ける省略の印を置いています。
実際に行ったことだけを、一覧へ取り出す
この二頁で行った編集は、次のように整理できます。どこまで変えたかを確かめてから、凡例の言葉にします。
| 扱い | この案で確認する内容 |
|---|---|
| 表記変更 | 両頁の題の「記錄」を「記録」へ変え、一頁目の「きのふ」「あつた」と二頁目の「のこつた」を現代の表記へ直した。「花だん」「黄いろ」などは元のままにした。 |
| 省略 | 二頁目の欄外メモ一箇所を読み物版から外し、その場所へ[欄外メモ省略]を付けた。題と本文、二頁の順番は保った。 |
| 画像の扱い | 編集対象の二頁は文字だけなので、資料画像の掲載や切り抜き・色調の調整は行っていない。本文の主画像は、これらの元資料を写したものとして扱わない。 |
この案では、全ての表記を一律に改めたわけではありません。「旧字・旧仮名を全て現代のものにした」と広く書くと、実際に残っている表記との関係が分からなくなります。どの扱いを採ったかを、原稿で確認できる範囲に合わせます。
冊子全体の方針を、短い凡例にまとめる
この二頁の読み物版に付けるなら、凡例は次のようにまとめられます。
- この案のために作成した「花壇の記錄」の一頁目と「花壇の記錄 つづき」の二頁目を元の資料とし、題と本文を頁の順に収めた。
- 題の「記錄」は「記録」とし、本文の「きのふ」「あつた」「のこつた」は「きのう」「あった」「のこった」に改めた。それ以外の語の表記は元の文に従った。
- 二頁目の欄外メモは省略し、該当箇所に[欄外メモ省略]と記した。この印は編者が付した。
- 元の二頁には画像を使っておらず、資料画像の切り抜きや色調の調整は行っていない。
実際の冊子では、元にした日記や会報などの名称、巻号や対象年月、所蔵者・提供者、収録する頁や資料番号を確認して書きます。確認できていない日付や出所、所有関係を、凡例の体裁を整えるために補わないようにします。
文字を読みやすく直す方針と、原資料の見た目をそのまま見せる方針も分けて考えます。この案は文章を整えた読み物版で、古い資料の筆跡・紙の状態や行の位置を再現した影印ではありません。
一箇所だけの事情は、その場所へ注記する
凡例の「省略する」という説明だけでは、何がどこで省かれたか分からない場合があります。この案では、二頁目の元の文にあった欄外メモを、編集後の同じ順序の位置で[欄外メモ省略]と示しました。全体の方針と、該当箇所の印を対応させる使い方です。
資料の欠け、読めない文字、別の資料で補った内容などが実際にあるなら、それぞれの箇所に必要な説明を付けます。元資料の言葉と編者の説明を区別できる記号や書き方を決め、凡例でもその使い方を伝えます。
ただし、この二頁の案には読めない文字や欠け、別資料からの補足はありません。行っていない処理を、一般的な凡例の形に合わせて追加する必要はありません。
画像を調整した冊子なら、処理の範囲も照合する
実際の記録冊子で資料画像を使う場合は、頁全体を載せたのか、必要な部分を切り出したのか、傾きや明るさ・色調を整えたのかを、元の画像と照らします。画像の見え方に関わる処理をしたなら、その範囲を読者にどう伝えるかを編者と確認します。
一部を抜いた画像を資料全体として紹介したり、文字を読みやすくするための調整を元の色そのままと説明したりしないようにします。現物の色や細部まで忠実だと伝える場合は、その確認方法と限界も別に確かめます。
原資料と変更の記録を、確認する方へ渡す
凡例を確定する前に、編者は元の資料、編集後の本文、変更と省略の記録を対応させます。資料を確認できる方には、元にした資料が合っているか、対象範囲や省略した箇所の扱いに誤りがないかを見てもらいます。実案件の確認者や、掲載してよい範囲は、その案件で決めます。
複写 HUKUSYAへ相談するときは、元資料の複写と編集原稿、今回収めたい範囲、すでに変えた点と未確認の点をお知らせください。画像・原稿からの冊子制作案内から、凡例や注記を含めた構成・編集・デザインを相談できます。原資料の出所や掲載範囲を確認する担当、照合する作業の範囲と費用も合わせて決めます。
参考資料
- [1] 石川特殊特急製本「本の原稿作成について」(「本の構成」の中の凡例の説明)



