読めない家族の書を、分かることから作品集に残す
家族が残した書は、文字を読み切れなくても記録を始められます。全体の姿、落款や付属する札、家族が分かる経緯を分け、推測で題名を埋めずに作品集へ残す方法を考えます。
HUKUSYA / JOURNAL

家族から受け継いだ書を作品集に残したい。でも、何と書いてあるのか読めない。そんなときも、文字の内容をすべて確定してから準備を始める必要はありません。作品の全体と書き込みの写真、家族が分かる経緯を分けて残すところから始められます。
題名や作者を推測で埋めず、「ここまでは分かる」「この部分はまだ確認できていない」と伝わる形にする。そうしておけば、今の家族が作品の姿を見返せるとともに、後から文字を確認する人にも資料を渡せます。
まず、どの書を残したいかを選ぶ
実家に何幅もあるなら、最初からすべての文字を読むことを目標にせず、家族で見返したいものから選んでみます。長く飾っていた一幅、受け取ったいきさつを覚えているもの、これから別の家族へ渡すものなど、残したい理由が手がかりになります。
書かれた言葉が分からなくても、墨の濃淡や筆の運び、紙と表装を含めた姿は、写真で残したい対象になります。作品集にはどこまで見せたいか、家族が覚えている風景と一緒に考えられます。
巻いたままの書や傷みが気になる作品は、今の状態を伝えて取り扱いを相談します。記録のために無理に広げたり、額や台紙から外したりする前に、できる範囲を確認しておきます。

全体の写真と、小さな書き込みを結び付ける
作品全体が分かる画像を一枚用意し、署名や印、小さな書き込みがあれば、その部分の画像も同じ作品に結び付ける案があります。読めるかどうかを決める前に、どこにどんな記載があるかが分かる状態で残します。
細部の画像だけでは、どの書のどの位置なのか迷うことがあります。全体の画像と同じ仮番号を付ける、写真の名前に「全体」「左下の印」と添えるなど、後から対応を確かめられるようにします。新しい番号を作品そのものへ書き込む必要はありません。
箱や札、添えられた手紙に記載がある場合は、それらも別の資料として撮っておきます。ただし、箱に書かれた名前だけで作者を確定したり、箱と中の作品がもともと一組だと決めたりせず、家族が確認できることを添えます。
全体像に加えて記載や特徴を記録する考え方は、ICOMの「Object ID Checklist」にも示されています。[1]ここではその考え方を、家族が後から同じ作品へ戻れる写真の組として使います。文字の読みや作者を認定するための手順ではありません。
家族の呼び名と、文字の内容を分けて書く
正式な題名が分からなくても、家族の間で作品を指す呼び名は使えます。「床の間に掛かっていた書」などを、家族内の呼び方だと分かるように添える案です。その呼び名を、書かれた言葉の読みや正式な題名として扱わないことが大切です。
たとえば、題名も文字の内容もまだ確認できていない書なら、次のように欄を分けて記入できます。
- 家族での呼び名:床の間の書(家族内での呼び方)
- 文字の内容・作者:確認できていない
- 家族の覚え書き:置かれていた場所や、受け取った経緯を分かる範囲で記入する
これは書き方の例です。実際の原稿では、その家族が確かめられる内容に置き換えます。誰かから聞いた話なら、「母から聞いた話」など、伝えた人と伝聞であることを残します。覚えていない時期や、読めない文字を、話がつながるように補う必要はありません。
読めた部分も、確認した人と根拠を残す
一部分だけ読めそうな場合は、確認できた範囲と、迷っている範囲を分けます。全文をきれいな文章に整えるよりも、どこまで確かめたかが伝わることを優先します。後から詳しい人に見てもらうなら、文字の画像と、今の読み取りメモを別に渡せるようにしておきます。
読みが確認できたときは、誰が何を見て確認したかを原稿の記録へ添えます。解釈が分かれた箇所は、そのまま確認待ちにできます。新しい読みが得られても、元の作品画像と以前のメモを残しておくと、変更した部分を確かめられます。
作品集の説明文には、確かめられた表記と、家族が伝えたい経緯から必要なものを選びます。家族だけで持っていたい話や、まだ確認できていない読みは、作品集へ載せる文章と別に保管する方法もあります。
写真を残す範囲と、作品集にする範囲を相談する
まず画像として残しておきたいのか、分かる経緯を添えた一冊まで作りたいのか。今決まっている希望を伝えれば、撮影と編集をどこまで進めるか相談できます。解読を待つ部分があっても、全体の写真や、家族が確認できる情報の準備は先に考えられます。
複写では、書の寸法や表装、巻き・折れ・傷みの状態を伺って、撮影・スキャンの方法を確認します。詳しい対象と取り扱いは、書道・掛け軸などの撮影とスキャンの案内をご覧ください。題名や制作年が分からない場合も、そのままお知らせいただけます。
作品集へまとめるときは、載せたい書のおおよその点数、手元の画像、箱や札の有無、家族が分かる経緯を一緒に伝えます。撮影と、原稿の編集・デザイン・印刷では必要な作業が異なるため、作品集・カタログ制作の範囲と費用を確認します。鑑定や作者認定、翻刻・解読を前提にせず、記録できることと別に確認することを分けて進めます。
家族の書の残し方を相談する際は、読めない部分があることも含め、今の作品と分かることをお聞かせください。
参考資料
- ICOM「Object ID Checklist」1頁。全体写真に加え、記載や特徴、短い説明を記録する考え方を参照。



