遺墨集のはじめに何を書く? 作者紹介と家族の言葉のまとめ方
長い略歴がなくても、作品集の冒頭は考えられます。作者を紹介する情報、家族の記憶、一冊を作る理由を分け、家族用と遺墨展用の短文例から原稿を整えます。
HUKUSYA / JOURNAL

故人の絵や書を作品集に残すとき、「はじめに何を書けばよいのだろう」と迷うことがあります。立派な略歴や長い挨拶文を用意しようとして、手が止まってしまう方もいるかもしれません。
まずは、作者について確かめられること、家族として覚えていること、この一冊を作る理由を、別々に書き出してみてください。そのすべてを冒頭に載せる必要はありません。誰に渡す冊子かを考え、作品を見る前に知ってほしいことを選ぶところから始められます。
作者の紹介と、家族の記憶を分けて集める
作者の紹介には、名前の表記や、どのような作品を残したのかなど、確認できる情報を用います。制作年、肩書、所属先、受賞歴は、分からなければ推測で足さず、確認できた範囲を原稿にしましょう。略歴をすべて並べなくても、作品集の入口となる短い紹介は考えられます。
家族の記憶は、情報の一覧とは違う役割を持ちます。「窓辺で絵を描いていた姿を覚えている」「帰省するたびに新しい一枚を見せてくれた」など、どんな場面が浮かぶでしょうか。こうした記憶は、誰から見た思い出なのかが分かるように残します。家族全員が同じことを覚えている、と広げて書く必要はありません。
別々に書き出しておくと、確かな情報を添える部分と、書き手の思いを伝える部分を選びやすくなります。最初から整った文章にせず、短い箇条書きでも構いません。
冒頭に置くのは、作品を見るための入口
家族へ渡す一冊と、作者をよく知らない人も訪れる遺墨展の冊子では、最初に必要な説明が違います。家族用なら、共有してきた時間を思い出す短い言葉から始める案があります。展示会用なら、誰のどんな作品をまとめた冊子なのかが先に分かると、作品へ目を向けやすくなります。
一作品ごとの解説や詳しい年譜を、冒頭の挨拶にすべて含めなくてもよいでしょう。冒頭で伝えたいことを一つ選び、詳しい説明が必要なら、その作品のページなどに分ける方法を相談できます。
同じ材料から、家族用と遺墨展用の二つの短文へ
家族へ渡す場合と遺墨展で渡す場合について、同じ材料から二つの冒頭文を考えてみましょう。
元の材料は次のとおりとします。
- 作者名は「森川澄」。自宅に山の風景の絵12点が残されている。
- 娘は、母が窓辺の机で絵を描いていた姿を覚えている。
- 一部の作品は制作年が分からない。本人の言葉として引用できる記録は、今回の材料にはない。
- 冊子の使い道として、家族が手元で開く一冊と、小さな遺墨展で手渡す一冊の二通りを考える。
二つの使い道について、それぞれ冒頭文を作ると次のようになります。
家族に渡す一冊:娘の記憶からつなぐ
母、森川澄が残した山の風景の絵から、12点を一冊にまとめました。窓辺の机に向かう母の姿を、私はよく覚えています。家族それぞれが手元で絵を開き、母のことを話せる一冊になればと思います。
書き手:娘

娘が覚えている場面を入れ、絵を開く時間と家族の思い出を結びつけた案です。「私は」と書き、誰の記憶かを示しています。母本人の気持ちや制作の意図は、この材料からは分からないため書き加えていません。
遺墨展で渡す一冊:作者と収録内容を先に伝える
森川澄が自宅に残した山の風景の絵12点を紹介します。この冊子は、小さな遺墨展で作品とともに手渡すために、家族でまとめました。制作年が分からない作品もあります。それぞれの風景を、どうぞゆっくりご覧ください。
書き手:家族一同

こちらは作者名と収録内容から始め、初めて手に取る人へ冊子の目的を伝えています。娘個人の記憶は載せず、年が分からない作品もあることを添えました。実際に「家族一同」とするなら、内容とその名義を家族で確認します。一人が書いた記憶を、確認せず全員の言葉として扱わないようにします。
どちらの文章も、元の材料にない受賞歴や評価を加えていません。二案の違いは、情報を立派に見せることではなく、渡す相手に合わせて何を先に伝えるかという選択です。
本人の言葉を使うなら、家族の文章と区別する
手紙や日記などに、冒頭へ添えたい本人の言葉が残っている場合もあるでしょう。そのときは、どの資料のどこにある言葉かを控え、引用部分と家族が書いた説明が分かる形にします。読めない文字や意味を、読みやすさのために想像で埋めないことも大切です。
「母なら、こう言ったと思う」という家族の想像は、本人が実際に話した言葉とは別です。本人の発言としてかぎ括弧に入れず、家族としての思いを書くか、今回は載せないかを考えましょう。引用できる記録がなくても、作者の紹介と一冊を作る理由から冒頭文を用意できます。
短い材料のまま、原稿づくりを相談する
原稿を渡すときは、作者名の確認済みの表記、載せたい作品、書き手と作者の関係、冊子を渡す相手、一冊を作る理由を添えると、冒頭で伝えることを相談しやすくなります。未確認の情報は、本文に紛れ込ませず、確認中の項目として別に知らせます。
文章にしようとすると言葉がまとまらない場合も、思い出した場面を短く書いたメモから始められます。家族の語り口をどこまで残したいか、名前や個人的な思い出をどの範囲で載せたいかも、一緒に話しておくとよいでしょう。
作品集・カタログ・Web制作では、画像だけでなく、掲載する順番や添える言葉も相談できます。長い挨拶文を完成させてからでなく、手元にある作品と短い原稿の材料から、一冊のはじめを考えてみてください。



