手紙や日記を短く載せるとき|残す話を決めてから抜粋する
冊子で一部分を紹介するとき、どの言葉まで省いてよいか。太宰治『人間失格』の一段落と抜粋案を比べ、短さと一緒に考えたい話のつながり、原文の記号、全文を残す場所を見ていきます。
HUKUSYA / JOURNAL

手紙や日記を冊子で紹介したいとき、長い文章から印象的な一節を選ぶことがあります。ただ、短くする途中で、その話がここに残っている理由まで落ちてしまうこともあります。
まずは、読む人に何を届けたいかを原稿の中から見つけてみましょう。言葉の長さだけで決めず、その場面が伝わるところまで残すと、短い紹介と全文の役割を考えやすくなります。
短く紹介したい話を、先に見つける
家族のどんな一場面を残したいでしょうか。離れていた時のやり取り、日々の暮らし、ものを大切にしていた様子など、冊子で伝えたい話を考えると、選ぶ文章も変わってきます。
一部分を選ぶ前に、前後も読んでみます。そこに誰の話か、いつの出来事かが書かれているなら、一節だけでは伝わりにくいかもしれません。残したい場面につながる言葉を、文章の中で探します。
ここでは、太宰治『人間失格』の「あとがき」にある小説の一段落で、原文と短く載せる案を比べます。手元の手紙を編集するときにも、何を省くと話が変わるのかを考える材料になります。
省く一文が、話のつながりを変えないか
原文には、送り主が誰かという話に続いて、ノートと写真が空襲を免れ、語り手が全部読んだことまで書かれています。下の案では、途中の「空襲の時、ほかのものにまぎれて、これも不思議にたすかって、」を「[中略]」にしています。
原文の一段落
「さあ、それが、さっぱりわからないんです。十年ほど前に、京橋のお店あてに、そのノートと写真の小包が送られて来て、差し出し人は葉ちゃんにきまっているのですが、その小包には、葉ちゃんの住所も、名前さえも書いていなかったんです。空襲の時、ほかのものにまぎれて、これも不思議にたすかって、私はこないだはじめて、全部読んでみて、……」
短く載せる案
「さあ、それが、さっぱりわからないんです。十年ほど前に、京橋のお店あてに、そのノートと写真の小包が送られて来て、差し出し人は葉ちゃんにきまっているのですが、その小包には、葉ちゃんの住所も、名前さえも書いていなかったんです。[中略]私はこないだはじめて、全部読んでみて、……」
原文:太宰治『人間失格』「あとがき」より。青空文庫の本文で前後も読むことができます。上は一段落の原文と、その途中を省いた案です。
短い案でも、小包が送られてきたことと、あとでノートを読んだことは残ります。一方、空襲のなかで資料が残った経緯は読み取れなくなります。伝えたいのが「どうして今まで残ったか」という話なら、この部分を省かずに載せる方が、その話の流れを保てます。
どちらの長さを選ぶかは、掲載する目的によって変わります。経緯を含めて残したいなら全段落にする、別の短い一節を選ぶ、といった考え方もあります。紙面の枠に合わせてから考えるより、残したい話から文章の長さを決めてみます。
原文の記号と、今回の中略を分ける
この一段落の終わりにある「……」は、最初から原文にある記号です。今回途中の文章を省く位置に入れた「[中略]」とは、文章の中での役割が違います。抜粋するときも、元からあった言葉や記号を残した上で、今回省くところが分かるようにします。
原文の記号を、書き手の迷いや沈黙だと決めつける必要はありません。何を表しているかは、文字の形だけでは読み切れないからです。手紙や日記を扱う場合も、読み手の説明を加えるときには、書き手の言葉と分かれる位置に添えます。
短い紹介と、全文を残す場所を考える
短い紹介文と、原稿を全文で残すページは、同じ役割にしなくても構いません。紹介のページでは読み始めるきっかけをつくり、後ろのページには、その話の続きや前後の文章を置く案も考えられます。
たとえば、一節のそばに手紙全体の頁番号を添えれば、前後を読みたい人がたどる入口になります。日記なら、選んだ一日だけでなく、その前後をまとめる場所を決めておくと、短い引用をどこに置くかも考えやすくなります。
文字だけで載せるか、元の手書きの姿も添えるかによって、必要な余白や説明の量も変わります。原稿の姿を見ながら、短い文章と全文の位置を一緒に考えてみましょう。
手元の文章から、冊子の読み方を相談する
まとめたい手紙や日記があれば、どの相手に読んでほしいか、どの場面を残したいかも、原稿と一緒に伝えてみてください。全部を一度に短く整えようとせず、まずは大切に載せたい一節から、冊子の読み方を考えられます。
HUKUSYAでは、いただいた原稿をもとに、文章の編集や冊子の掲載構成を相談できます。短い紹介と全文を置く場所、原稿の姿を添える範囲など、手元の文章に合う形を一緒に考えていきます。



