複写 HUKUSYA
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資料の中の引用を紹介する 誰が伝えた言葉かを残す

家族や地域の文章にある、別の人が伝えた言葉を冊子へ紹介するときに。短い引用と一段落を載せる案を比べ、誰が記し、誰が伝えた言葉かを出典とともに残す方法を考えます。

短い言葉とその伝わった経路を左頁、寺田寅彦の語りを中谷宇吉郎が記した一段落を右頁に置いた冊子の紙面案。見開き全体と綴じ、余白が見える。HUKUSYA / JOURNAL

家族の回想や地域の記録には、書いた人が、別の人から聞いた言葉を紹介する場面があります。その中の一言を冊子に抜き出すときは、言葉と一緒に「どの文章に、誰が伝えた言葉として記されているか」を残します。短く紹介する面と、周りの語りも載せる面を比べながら、引用する範囲と出典の置き方を考えます。

書いた人と、話している人を分けて読む

中谷宇吉郎の『冬彦夜話――漱石先生に関する事ども――』では、中谷が「冬彦先生自身が語られた漱石先生の話」を書き抜くと述べ、その語りを字下げで区切っています[1]。冬彦は、寺田寅彦の筆名です。青空文庫の寺田のプロフィールにも、吉村冬彦の筆名で作品を書いたことが記されています[3]。

ここでは、文章を記した人が中谷宇吉郎、字下げされた語りの話し手が寺田寅彦、その語りの中で言葉を紹介される人物が漱石先生、と三つの位置を分けて読みます。出典欄の著者名だけを見て、一段落の中の話し手まで同じ人だと決めないことが、抜き出す範囲を選ぶ手掛かりになります。

一段落には、言葉の前後の思い出もある

次は、第二の字下げ引用から、最後の一段落全体を抜いたものです。寺田の語りの中に、漱石先生の言葉が「」で記されています。原文の字句と句読点、一段落の先頭の空白を保ち、出典は引用の外へ添えています[1]。

中谷宇吉郎『冬彦夜話』に記された、寺田寅彦の語り

 先生が死なれてから、書斎は生前の通りちゃんと、本でも筆でも昔あったままにして保存してあるが、やはり主人がいないと何となく部屋まで淋しくなるね。全体にいぶしがかかったような気がする。あの部屋には例の象牙のブックナイフがまだ残っているはずだが、あれは先生確か『猫』の初めの原稿料だったか不意にあぶく銭が這入った時、先生子供のように嬉しがって買ってこられたものだった。あれは随分大事にされて、「本当の象牙はこうして鼻の脂を付けると、鼈甲色に透き通るようになるんだ」といいながら、始終鼻の横をあのナイフで撫でておられたものだった。段々垢がついて薄黒く汚くなっていたが、いつかどうしたことか、その大切なナイフの上の方にひびが入って困っておられたので、僕がナイフでその部分を切り取って丸く削ってあげたことがあった。あれは思い出のナイフだよ。まあそういう瑣細なことでも皆懐しい思い出になるのだ。

段落の「僕」は、語り手の寺田寅彦として読みます。ブックナイフを大事にしていた様子、ひびが入って困っていたこと、寺田が一部を削った思い出が続き、その中に漱石先生の言葉が置かれています。書名の『猫』を囲む括弧は、発言の括弧とは役割が違います。

「まだ残っているはず」「先生確か」といった語も、この語りを構成する字句です。一段落を載せる案では、それらを含む原文を保ちます。確かめたことを別に説明する場合は、原文の中の語を言い切る形へ直す前に、説明の根拠と置き場所を決めます。

短い言葉にも、伝わった経路を添える

冊子の導入で一つの言葉を大きく見せたいなら、内側の「」に入った部分を抜く案があります。下のA案は、その言葉に、文章を記した人と伝えた人が分かる説明を添えます。B案は、その言葉を含む一段落を載せ、ブックナイフをめぐる思い出も合わせて読む面です。

「本当の象牙はこうして鼻の脂を付けると、鼈甲色に透き通るようになるんだ」

引用の外に添える説明

中谷宇吉郎『冬彦夜話』に記された、寺田寅彦が伝える漱石先生の言葉。

Aの説明は、今回参照した文章へ読者を戻すためのものです。これを添えることで、漱石先生の言葉が、寺田寅彦の語りを中谷宇吉郎が記した文章にあると分かります。出典として確認した公開本文の記述に沿い、発言の日時や録音など、今回確かめていない情報を足さずに紹介します。

Aは漱石先生の言葉を短く抜き、中谷宇吉郎の文章に記された寺田寅彦が伝える言葉という説明を外に添える。Bはその言葉を含む寺田の語りの一段落全体を載せ、出典を外に示す。
青空文庫の公開本文から組み直した冊子の紙面案。Aは内側の「」にある言葉と別の説明、Bはその言葉を含む一段落です。原文の字句を保ち、出典と紹介の説明は引用の外へ置いています。

どちらの案にするかは、その面で伝えたいことから選びます。一つの言葉を紹介する面ならA、道具をめぐる人の思い出を読む面ならB、というように、引用範囲を先に決めます。そのうえで、短い案でも出典と伝えた人が分かるよう、見出しの大きさや説明との余白を整えます。

抜いた箇所だけでなく、元の段落へ戻して確かめる

お手元の回想録や会報で同じような引用を使うなら、まず引用したい箇所と前後をそろえます。書いた人、語りの話し手、語りの中で紹介される人物を確認し、字下げや括弧がどの範囲を区切っているかを元資料へ戻して読みます。別のページへ移す際は、その区切りと出典が読者に伝わる配置を選びます。

引用文は原文へ、紹介の説明はその根拠へ、それぞれ照合します。短い言葉を抜くと前後から離れるため、出典欄には資料名と著者名を残し、必要なら巻・号・頁など、元の箇所へ戻る手掛かりも添えます。今回の図書カードにある初出は『漱石全集 第九巻 月報第十七号』、1937年3月10日です[2]。これは掲載の情報として扱い、段落内の言葉が発せられた日へ読み替えません。

抜く範囲と添える説明が決まったら、原資料を確認できる方へ紙面案を戻します。出典や利用条件、読みにくい箇所を共有し、確認する原稿をそろえます。紙の冊子では、判型と文字の大きさを決めた後、校正紙でも引用と説明の境目を読めるか確かめます。

相談には、引用したい箇所と前後を添える

複写では、作品や資料の撮影・スキャン、原稿の整理、冊子の編集と制作を相談できます。詳しい制作内容は、作品集・図録の編集と制作をご覧ください。

家族や地域の文章を冊子へ紹介する際は、利用できる元資料の画像または確定した転記、引用したい範囲と前後、著者名と出典、利用条件、添えたい説明をそろえて、引用と出典を分ける紙面編集をご相談ください。原資料を確認する方、冊子を渡す相手と用途、希望する判型もお知らせください。原稿確認・校正・出力の作業範囲は個別に確認します。

参考資料

  1. 青空文庫:中谷宇吉郎『冬彦夜話――漱石先生に関する事ども――』本文 — 書き抜く語りの導入、字下げの引用とその中の言葉。入力:kompass、校正:砂場清隆。青空文庫のボランティアが作成した本文を利用しています。
  2. 青空文庫:同作品の図書カード — 著者・作品名・初出・底本。底本は『中谷宇吉郎集 第一巻』(岩波書店、2000年10月5日第1刷)。書誌データは同ページのCC BY 4.0の表示に従い、出所を示しています。
  3. 青空文庫:寺田寅彦のプロフィール — 吉村冬彦の筆名についての記述。
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