昔の文章の「翌日」「昨年頃」を残す 原文と別注を分ける
昔の文章の「翌日」「昨年頃」を、根拠のない日付へ書き換えずに冊子へ残すために。正岡子規の同じ段落を使い、原文と、前後・出典から確かめたことを添える別注の配置を比べます。
HUKUSYA / JOURNAL

昔の文章を冊子に抜粋すると、「翌日」「昨年頃」がいつを指すのか迷うことがあります。日付が本文の外に見つかっても、原文の語を暦日に置き換える前に、前後と出典を確かめます。原文はそのまま残し、確かめられた手掛かりを別の注へ添えると、作者の言葉と後から加えた説明を分けて渡せます。
「翌日」の前に、どんなことが書かれているか
正岡子規の『明治卅三年十月十五日記事』には、次の段落があります。ここでは青空文庫の公開原文から、同じ段落全体を取り上げます[1]。
正岡子規『明治卅三年十月十五日記事』より
余は勇気を鼓して右向に直り筆を取る。再び日記の手入にかかるほどに、熱全くさめて、頭脳明瞭に、筆の進むを覚えず。発熱後はいつも頭脳明瞭にして仕事の
捗取 非常に早ければ昨年頃までは徹夜して為したる仕事多かりしが、翌日苦しき故に今は徹夜する勇気なくなりたり。発熱後一、二時間の仕事にてもその夜は睡眠出来ずして翌日は一日頭悪く仕事も何も出来ぬが例なり。
この段落には「翌日」が二度出てきます。一つ目は、以前は徹夜して仕事をしたが、翌日苦しいので今はその勇気がない、という話の中にあります。二つ目は、発熱後に一、二時間仕事をした場合にも、翌日は仕事ができないのが「例なり」と続きます。「いつも」「例なり」といった語も、繰り返し経験してきたことを語る段落として読む手掛かりになります。
前の段落では熱が次第にさめ、次の段落では日記の手入が続いています。この前後も含めて読むと、二つの「翌日」を作品名にある十月十五日の次の日へ一律に置き換えることはできません。「昨年頃までは」も、ある時期をおおよそ指す言葉です。「頃」を取り除いて一つの年や日に確定するより、その幅を含む原文を残します。
作品が記す日と、初めて載った日は分けて添える
作品名には「明治卅三年十月十五日」があり、別の段落には「今日は十月十五日」とあります。一方、青空文庫の図書カードに記された初出は「ホトトギス 第四巻第二号」、1900(明治33)年11月20日です[2]。作品が記す一日と、初めて掲載された日は、別の手掛かりとして扱えます。
初出日を、文章を書き終えた日や文中の「翌日」に読み替えることはできません。今回確認した公開原文と図書カードでは、実際の執筆・完成日までは確定していません。冊子へ添える説明も、「作品名にある日」「本文にある語」「初出」を区別して、分かる範囲にとどめます。
同じ段落を残し、編集注を外へ出す
紙面のA案は、同じ段落と作者・作品名を載せます。B案はその原文を変えず、別の囲みへ編集注を添えます。日付を原文の中へ挿し込むと作者が書いた字句との境目が見えにくくなるため、この案では注に見出しと余白を与えています。
編集注
作品名は『明治卅三年十月十五日記事』。本文に『今日は十月十五日』とある。『昨年頃までは』の『頃』を残し、文中の『翌日』は特定の暦日に置き換えない。
注の下に置く「初出(図書カード):1900年11月20日」は、掲載日の出典を示す情報です。「翌日」の答えとして原文へ戻す日付ではありません。原文と注を別々に読めるようにすると、後から注を修正する場合にも、どこが作者の言葉かを見失わずに済みます。

短く抜く前に、前後と出典へ戻れるようにする
お手元の昔の文章でも、まず段落全体と前後をそろえ、資料名、作者、記載された日付、掲載された日付を確認します。「翌日」の前に出来事が書かれているか、同じ文章の別の箇所に基準の日があるかを読み、どの根拠から注を付けるのかを決めます。
前後が残っていない切り抜きや、出所の分からない転記では、暦日への書き換えを急がず、元資料の所在を探します。参照する日が確かめられた場合も、原文を保ったまま「何の資料から、どの説明を添えたか」を別注で示す案を確認担当者へ戻します。読めない字、欠けた頁、日付の意味が未確定なら、その範囲も一緒に共有します。
最後に、原文だけの文字列を元資料へ照合し、編集注はその根拠へ照合します。原文の「頃」や、出来事を言い切らない語まで保っているかを確認します。紙で渡す冊子では、判型と文字の大きさを決めた後、校正紙でも原文と注を別々に読めるか確かめます。
相談には、引用する段落と前後の頁を添える
複写では、作品や資料の撮影・スキャン、原稿の整理、冊子の編集と制作を相談できます。詳しい制作内容は、作品集・図録の編集と制作をご覧ください。
昔の文章を冊子に引用する際は、利用できる原資料の画像または確定した転記、引用したい段落と前後、出典と利用条件、注に添えたい説明をそろえて、原文と別注を分ける紙面編集をご相談ください。確認を担当する方、冊子を渡す相手と用途、希望する判型もお知らせください。資料の判読や年代の確定が必要な場合を含め、原稿確認・校正・出力の作業範囲は個別に確認します。
参考資料
- 青空文庫:正岡子規『明治卅三年十月十五日記事』本文 — 引用段落、その前後と「今日は十月十五日」の記述。底本は『飯待つ間』(岩波文庫、岩波書店)。入力:ゆうき、校正:noriko saito。青空文庫のボランティアが作成した本文を利用しています。
- 青空文庫:同作品の図書カード — 作者・作品名・初出・底本の書誌情報。書誌データは同ページのCC BY 4.0の表示に従い、出所を示しています。



